2015年12月12日

杜の都に、宇宙人あり、カラコンあり、牛タンあり

牛タン

植木きららという店主は、本当に宇宙人のように無機質に、ミカのお気に入りのエバーカラーワンデーを差し出した。
「これで、お間違えないと思います」
きららの言葉にミカは首をかしげる。
「何で知ってるの?」
その問いには永遠に答えがないままであろうと、テルは本能的に察した。
「ねぇ、お姉さん、どこから来たの?」
テルの幼い質問に、きららは無言で、上を指差した。
「え?もしかして、宇宙から梯子で降りてきたとか?」
テルの疑問に、ギクッとしながらも、きららは無表情で答えた。
「梯子で降りてくるって面白いですね。私も近くなら、そうしたいです」
「え?」
テルの驚きを見て、きららはロボットのようだが、にっこり笑った。
「私も東京からなら、仙台まで梯子でノボッて来たいです」
話が突拍子もなくて、面くらっているミカに、きららは微笑みかけた。
「花の梯子で、月までは行けても、その先は、ちょっとむずかしいのが現状です」

ミカとテルは、牛タンの店に着き、ダラ~と緊張をほどいた。
「なんなの?あのお店。あの店主。宇宙人?」
「こっちが考えてること、見透かしてたよね」
ミカはとりあえずビールで、スッコーンと気持ちよくなる。
「まぁ、いろいろあるさ、テル。杜の都に、宇宙人あり、カラコンあり、牛タンあり」
「・・・花の梯子あり、ね」
テルの一言に、酔っぱらったミカは大笑いする。
「すごいねー、なんか全部つながってない?」
「・・・全然」
テルの意見はいつものようにスルーされたが、ご機嫌さんのミカと、牛タンのうまさを知ったテルは、仙台旅行もいいもんだ、と居酒屋で食い倒れるのであった。  


Posted by 弘せりえ at 12:25Comments(0)短編

2015年12月09日

果たして、仙台に着いたその日

仙台

果たして、仙台に着いたその日、土砂降りの雨だった。
どこにも観光に行く気分にもなれず、ミカとテルは、晩ご飯の牛タン屋を楽しみにするだけとなった。
「雨にも程がある。ママ、やっぱり、僕たち、ここになんか縁があるんだよ」
そういうテルをミカは、ふーん、と軽く流していたが、自分のことで、「あ!」と何か思い出してそわそわし始めた。
「なんか忘れ物でもしてきたの?」
「ピンポーン」
古い受け答えに、テルは苦笑いする。
「こんな雨の中でも、必要なもの?」
テルは、ミカのお気に入りの帽子やサングラスのことを考えたらしい。
「いるのよ、なきゃイヤなの」

テルの意志とは関係なく、いつもミカの衝動に動かされる。
ミカはネットで、カラコンの店を探していた。
「大のお気に入りのキラキラ・ブラウンを忘れてきちゃったー」
そんなおしゃれをして、息子連れで誰と出会いを求めているのか、テルは、あきれた。
が、検索が進むにつれ、ミカの表情が変わって行くのに気付いて、テルは驚く。
「どうしたの、ママ?」
「この近くに、不思議なカラコン屋さんがあるの。それで思い出したんだけど」
ミカは、幼い頃に呼んだ童話の話をした。それは、悪い男に追いかけられた美女が、摘んでいた花を梯子にして、月へと逃げる話だった。
「梯子。仙台。きらら」
「きらら?」
「なんかこの近くで、植木きららって人が、カラコン屋さんをしてるんだけど、彼女のHPが、宇宙なの、それに、イメージが、花や木なの」
「はぁ?」
母親の思考回路についていけず、テルはそのHPを覗き込む。
そして思った。確かに、不思議で、さっきミカが話した、花梯子の童話のイメージだなぁと。「とりあえず、行ってみよう!」
土砂降りの雨の中、二人は、きららなる人のお店に足を運んだ。  


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2015年12月06日

なんか地図見てたら、不思議な気がして

日本地図

「なによ、そういうテルは、杜っていう字だけでそんなにこだわってるわけ?」
最近、対等に会話ができるようになって、ミカは時々、テルが一人の大人のような気がしてくる。
テルは、教科書の日本地図を広げて言った。
「それもそうなんだけど、なんか地図見てたら、不思議な気がして」
「不思議?」
「うん、日本って、こうやって、縦に見るじゃない。東京はここで、仙台はここ」
テルは幼さの残る指で、東京と仙台を指差す。
「僕ね、なんだか、仙台って東京から梯子で登って行くイメージがあるんだ」
ミカはマジマジと地図を眺めた。確かに縦の地図の下の方に東京があり、上の方に仙台がある。
「でもそしたら、もっと上の青森は?北海道は、ロープがなきゃ登れない感じじゃん」
ミカの意見に、テルは首をかしげる。
「違うんだよなぁ。ママにはわかんないかな、この、梯子な感じ」
それは、おそらく、仙台の「台」が高台などをイメージさせるからなのだろう、よく見ると鉛筆のいたずら書きで、うっすらと東京から仙台に伸びている梯子が描かれている。
線だけで描かれた、単純な梯子だか、確かに登れそうだ。
「なるほど」
ミカは、子供の感性に感心した。テルは、本当にわかったの?という顔で、ミカを見ている。
「テルの言いたいこと、ママ、わかった」
「本当?」
「今度の三連休、牛タン食べに、仙台行こう!」
テルは、なんで、食べ物の話になるの?と驚く。
「仙台といえば、杜の都、牛タン、伊達正宗」
「なんで、全部ごっちゃなの?僕は梯子の話をしてたのに」
「話は好きなところに行きつくもんなのよ。テルが梯子なら、ママは牛タン」
「めちゃくちゃじゃないか」
苦笑しながら地図を閉じるテルのほうが、ミカより大人っぽく見えた。

両親にもう一度、「杜」の話をするが、答えは同じだった。仙台に知り合いもいないのに、突然、テルと遊びに入ってくる、と言い出したミカに、あきれるばかりだった。
「小学生の子供に、牛タンの味がわかるかしら。ハンバーグとかのほうが喜ぶんじゃない?」
祖母の言葉に、テルはうなずいた。
「ママは飲んべぇだからね、ビールと牛タンなんだ。僕は梯子に登りたかっただけで・・・」
語尾が小さくなり、祖母の耳に、テルの言葉は聞こえなかった。  


Posted by 弘せりえ at 12:05Comments(0)短編

2015年12月03日

一人息子を育てているシングルマザー

看護

ミカは、看護師として働きながら、一人息子を育てているシングルマザーである。
最近、そういう人が増えつつあり、特に資格を持って働いている母親たちは、職に困ることがないからか、看護師仲間にも何人か同じ立場の人がいる。
ミカはもちろん夜勤のない病院で働いていた。救急車で急患を受け入れるのとは逆に、
救急車で急患を大病院に送る、つまり、それほど大きくない病院で働いていた。
五年前に、離婚したとき、五歳だった息子のテルも、もう小学校の高学年になろうとしている。実家が近くて、よく両親にテルの面倒を見てもらったから、ミカは環境も良かったのかもしれない。
それに、いつも思うことがある。テルが小学校に上がる前に、離婚してよかったと。
ミカの旧姓は杜(もり)野(の)で、結婚していた時の姓は、森野だった。だから苗字が変わったことは
テルは知らない。おまけに、病院でつけている名札も、誰でも読めるように、ひらがなで書かれている。だから関係者以外は、ミカのいろいろを知らない。
テルも、学校で勉強してきたことを疑問に思う年頃になってきた。
「ママ、なんで、うちは苗字のもり、は普通の森じゃないの? トシくんのお母さんが、
杜の都の杜って、仙台の人かな?って言ってたらしい。なんで仙台が杜の都なの?うちは
仙台となんか関係あるの?」
それは、ミカが子供の頃から言われてきたことで、両親も祖父母も知る限りでは仙台となんの関係もない。大昔に遡れば、きっとなにか由縁があるのだろうが、今、直接的な関係はまったくなかった。
「仙台が杜の都って呼ばれるのは、緑がきれいな街だかららしいよ」
ミカの答えに、テルは、「らしい?」と問い返す。
「ママは行ったことないの?」
「うん、ないなぁ」
「なんで?」
「だって、用がないから」
テルは、ミカの面白味のない答えに、ハァと溜息をついた。  


Posted by 弘せりえ at 12:16Comments(0)短編